ADHD(注意欠陥多動性障がい)とは?子どもの特徴や接し方を理解しよう
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#子どもの心と体
作成日 2019/02/15
更新日 2024/05/14
ADHD(注意欠陥多動性障がい)とは?子どもの特徴や接し方を理解しよう
令和4年の文部科学省の調査によると、ADHDを含む何らかの発達障がいを持つと推測される「知的発達に遅れはないものの学習面、各行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒」の割合は、小学生の平均で10.4%。小学校1年生で12.0%、6年生で8.9%と下の学年ほど、その割合が高いことが特徴です。
(参照:文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」)
小学校1年生では約10人に一人が発達障がいまたはそのグレーゾーンといわれるなか、保育園児の月齢におけるその割合はより高いと推測されます。発達障がいのひとつ、ADHDは「注意欠陥多動性障がい」とも呼ばれ、「集中力がない」「じっとしていることができない」「衝動的な行動をしてしまう」などがおもな特徴です。そのため、行動の特徴を理解して適切な配慮をする必要があります。ADHDの特性や対応のポイントなどについて、詳しく見ていきましょう。
目次 |
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ADHD(注意欠陥多動性障がい)とは?その3つのタイプと特徴
ADHDは、「不注意」「多動」「衝動的」の3つのタイプに分かれ、それぞれ症状の特徴や表れ方に違いがあります。それぞれ、どのような特徴があるのでしょうか。
不注意優勢型の子どもの特徴と表れ方
不注意優勢型の特徴は、「ひとつのことに集中するのが難しく、集中力が続かない」「周りに気をとられやすくすぐに気がそれる」「忘れっぽく、物をなくしやすい」などが挙げられます。日常生活では、次のような形で表れることがあります。
・顔を見て話していても、話を聞いていないように見える
・同じ作業や動作を繰り返すことが苦手
・音に敏感に反応する、刺激にすぐに興味を示すなど気が散りやすい
・何かをやりかけで投げ出してしまう、自分の順番などを忘れてしまう
・忘れ物をする、物をなくす
・何かを順序立てて行なうことが難しい
これらの症状は、短期的な記憶である「ワーキングメモリ」と呼ばれる脳の機能が十分に働かないためともいわれています。短期的な記憶、たとえば「朝は8:00に出るから7:50までには歯磨きを終える」というような「状況を把握して行動を起こすこと」が難しいとされています。
多動性優勢型の子どもの特徴と表れ方
多動性優勢型では、「おしゃべりすぎる」「頭で考えるよりまず先に体が動き、おさえられない」などの症状が挙げられます。日常生活では、次のような形で表れることがあります。
・話し出すと止まらない
・静かにしなければならない状況でも、静かに座っていることが難しい
・夢中になりすぎて周りが見えなくなることがある
もちろんこれは意図的なものではありません。動いたり話したりしていないと落ち着かず、無意識のうちにこのような症状が出てしまうのです。
衝動性優勢型の子どもの特徴と表れ方
衝動性優勢型の場合、「自分の感情をコントロールできない」「発言や行動をおさえられない」という特徴が見られます。日常生活では、次のような形で表れることがあります。
・一番にこだわる海洋 ・人がしていることを邪魔したり、さえぎったりする
・ほかの人が話していても出し抜けに話し出したり、質問が終わる前に話し出したりする
頭で考える前に話し出したり行動してしまったり、というのが衝動性の特徴です。脳の働きの問題により、一瞬立ち止まって考えることができないのではないかといわれています。
これらの「不注意」「多動性」「衝動性」に見られる行動は、保育園にいる月齢の子どもであれば、誰にでも見られます。少し注意して直るようであれば問題ありませんが、注意しても何度も同じことを繰り返すのであれば、ADHDかもしれません。ADHDだった場合、意図的にしているのではなく、ADHDの特性によるものであるということを理解しておきましょう。また、ADHDは女子より男子に多いとされています。※近年では、男女比は同程度だとの調査結果もあります。
(参照:国立精神・神経医療研究センター こころの情報サイト「発達障害(神経発達症)」)
次の章で、ADHDの具体的なチェックリストについて説明します。
ADHD(注意欠陥多動性障がい)チェックリスト
ADHDの判断基準について、アメリカの精神医学会で次のようなチェックリストが作られています。実際にどのような症状がADHDの可能性が高いのでしょうか。
下記はアメリカ精神医学会の診断基準第5版によるADHDの判断基準リストをベースにしたチェックリストです。もしまわりに気になる子どもがいたら、チェックリストAまたはBの症状が6つ以上(17歳以上は5つ)当てはまるかどうかチェックしてみてください。
チェックリストA |
□ 細かな注意ができない。不注意なミスをよくする |
□ 集中し、注意してものごとを続けられない |
□ 指示されたことに従うことが困難で、課題をやりとげられない |
□ 話をしているのに、上の空で人の話を聞いていない |
□ 活動や課題を整理できない |
□ 音や何かの刺激ですぐそちらに気が向いてしまう |
□ ルーティンでやっているような日々の活動でもすぐ忘れてしまう |
□ 精神的努力の持続性のある活動が苦手 |
チェックリストB |
□ 座っているときにじっとできず、手足をもぞもぞ動かす |
□ 長い間座っていられず、立ち上がってうろうろしてしまう |
□ 自由な行動が許されていない場面で、走り回ったりよじ登ったりする |
□ 静かに遊ぶことができない |
□ しゃべりすぎる |
□ 質問されても、質問の途中で出し抜けに答えてしまう |
□ 順番待ちができない |
□ ほかの人の邪魔をしたり、割り込んだりする |
□ とにかく衝動的な感じで、じっとしていられない |
チェックリストC |
□ チェックリストABの症状が、ふたつ以上の環境(保育園・幼稚園・家庭など)で起こる |
□ 症状が集団生活に支障をきたしている |
参照:国立精神・神経医療研究センター・メルボルン大学精神医学部門 「発達障がい領域における 『脳とこころの研究の進歩』」)
このチェックリストにあてはまるからと言ってただちに該当の子どもがADHDというわけではありません。診断には医師や専門家の診察が必要です。該当する子どもがいた場合は、園長や保護者などにまずは相談をしてみましょう。
ADHD(注意欠陥多動性障がい)とアスペルガー症候群とはどう違う?
次に、ADHDと間違われることも多いアスペルガー症候群との違いについて見ていきましょう。
ADHDと勘違いしやすい症状に、アスペルガー症候群があります。ADHDとアスペルガー症候群は併発していることもあるので注意が必要です。それぞれの症状は、どのように異なるのでしょうか。
アスペルガー症候群とは?
アルペルガー症候群は広汎性発達障がいや自閉症スペクトラムとも呼ばれ、ADHDと同様に発達障がいのひとつです、「不注意」「多動」「衝動的」が特徴のADHDと比較し、アスペルガー症候群は「社会性が求められることや対人関係が苦手」「コミュニケーションが苦手」「興味のパターン化や固執、こだわりが強い」などの特徴が挙げられ、日常生活では次のような症状が見られます。
・社会性や対人関係
相手の気持ちがすぐにわからない、新しい環境が苦手、思い込みが激しい、空気を読めないなど
・コミュニケーション
表現力が乏しい、語彙が少ない、すぐに言葉が出ないなど
・興味のパターン化や固執・こだわり
自分のルールを曲げない、ルーティン化しないと不安を感じる、好き嫌いが極端など
アスペルガー症候群は、コミュニケーションや社会性などを問われるシチュエーションを苦手とする特徴が多く、一人でいる状態を好むことがあります。
ADHDとアスペルガー症候群を一覧表で比較
それぞれの特徴別に、ADHDとアスペルガー症候群の違いを比較してみましょう。なお、下記の表は代表的な症状であって、すべてのADHDとアスペルガー症候群の子どもに当てはまるわけではありません。
ADHD | アスペルガー症候群 | |
不注意 | ほとんどの場合不注意が見られる | タイプによって差があるが、不注意の人もいる |
多動性 | タイプによる。見られない場合もある | 多動性が見られる場合もある |
衝動性 | タイプによる。見られない場合もある | 衝動性が見られる場合もある |
言語 | 問題なし | 子どもの場合はあまり著しく遅れは見られないが、語彙や表現が乏しい |
こだわり | なし | 強いこだわりあり |
お友だちや先生との関係 | 一方的なこともあるが、苦手意識はなし | 対人関係自体が苦手で、人の話を聞くことができなかったり、一人でいることを好む |
場の雰囲気 | 空気は読んでいるが、衝動的な行動をしてしまう | 空気を読めない |
整理整頓 | 注意力散漫で整理整頓が完結しない | こだわりがあるため、物を溜め込む傾向にある |
運動能力 | 運動は苦手ではない | 運動全般や手先を使った細かい動作が苦手 |
マルチタスク | 注意力が散漫で、ひとつのことを完結しないまま次のことをする | ひとつのことに集中しすぎて、ほかのことができない |
このように比較してみると、ADHDとアスペルガー症候群の違いがわかります。このようにADHDとアスペルガー症候群は別のものですが、問題とされる行動では見極めが難しい場合もあります。たとえば「不注意」という点では、「対人関係に興味がないから人の話を聞かず不注意」なのか、「そもそも注意力が散漫」なのかを判断することは難しいと言えるでしょう。また、ADHDもアスペルガー症候群もそれぞれタイプがあり、専門家でも見極めが難しい場合もあるほか、この両方を併発しているケースもあります。
ADHD(注意欠陥多動性障がい)の原因は?
ADHDを含め発達障がいは脳機能の障がいや特徴であるといわれ、先天的な要素が大きく関係しています。ADHDの原因はどのようなところにあるのでしょうか。
ADHDは脳機能障がいが原因
文部科学省によると、ADHDは以下のように定義されています。
・7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。
ここで示されているように「何らかの要因」が中枢神経に関係していることまではわかっているものの、はっきりとした原因はまだ解明されていません。
中枢神経系とは脳と脊髄を中心とした神経のことで、体に伝わる刺激や種類を分析して、その処理方法を体の各部位に伝える役割を担っています。ADHDの症状では脳内で神経を伝達する物質であるドーパミンやアドレナリンの働きが足りてないことがわかっていて、そのため神経への十分な伝達がされないために、不注意・多動などの症状を発症すると考えられています。
また、さまざまな行動を司る実行機能となる大脳の一部「前頭前野」を含む脳の働きに偏りがあるのでは、とも考えられています。
ADHDは遺伝的な素因もある?
ADHDには、遺伝的素因や心環境要因との関連も報告されています。このふたつが相互に作用することで、ADHDの状態が作り上げられていくのです。本来のADHDの遺伝的な要素は小さいにもかかわらず、生育環境や生活環境などによってADHDの症状が増長してしまうということもあり得るのです。
たとえば妊娠中の喫煙は、胎児のADHD発症リスクを高めるといわれています。「発達障がいになりやすい」遺伝要素にくわえて、喫煙や環境ホルモンなどの要因がADHDの引き金になることもあるのです。
(参照:第22回日本臨床環境医学会学術集会 シンポジウム「自閉症・ADHD など発達障がいの原因としての環境化学物質」)
育て方や食品などはADHDの原因ではない
生活環境や生育環境がADHDに作用すると言っても、それは有害な物質的要素であり、育て方やしつけによってADHDが引き起こることはないと考えられています。
また、食事との因果関係の研究も進められていますが、現時点では食事内容そのものがADHDを引き起こす原因とはならないといわれています。ただし、「グルテン(小麦など)フリーの食事がADHDの症状改善に効果的な場合がある」という研究結果が報告されています。食事などに気をつかうことで症状が落ち着くこともあるようです。
ADHD(注意欠陥多動性障がい)の治療法
はっきりした原因が解明されていないADHDですが、治療法はあるのでしょうか。
ADHDは治療すれば治る?
ADHDの治療は、治すことを目的とはしていません。治療方法には「環境や心理的な支援による治療」と「投薬による治療」がありますが、いずれも自分のADHDの症状を理解し、折り合いをつけて社会や生活上をスムーズにすることが治療の目標とされます。
ADHDの治療法「環境や心理的な支援」
環境や心理的な支援に基づく治療法では、子どもの生活環境から不要な感覚刺激を減らし、集中しやすいような環境を整えます。また保護者がADHDへの理解を深め、円滑な日常生活ができるよう指導を受ける「ペアレント・トレーニング」というものもあります。そのほか、ADHDの子ども自身が集団参加行動や自己コントロールなどを学ぶ「ソーシャルスキル・トレーニング」があります。
ADHDの治療法「投薬による治療」
ADHDには投薬による治療方法もあります。小児期では不注意・多動性などの改善に役立つ「アトモキセチン」「メチルフェニデート」という薬が使われることがあります。
繰り返しになりますが、どちらの治療法も目的は「扱いやすい子ども」にすることではありません。ADHDの特性と向き合いながら、生活のしにくさを改善するために治療を行なうのです。
ADHD(注意欠陥多動性障がい)の対処法は?子どもへの接し方
これまでADHDの特徴や原因などについて解説してきました。具体的に保育園や幼稚園などでは、ADHDの症状が見られる子どもへどのような対処をするのがふさわしいのでしょうか。
不注意や多動への対応は「集中しやすい環境づくりを」
ADHDの治療法でも述べたように、保育園や幼稚園では環境や心理的な支援を心がけましょう。ADHDの子どもはほかのことに注意が移りやすいので、集中しやすい環境をつくってあげることが大切です。 具体的には下記のようなポイントが挙げられます。
・何かをするときには、おもちゃなどを見せずに片付けておく
・動くと落ち着くので、これから静かに座るようなシーンでは、「○○を取ってきて」など先に動かす
・小さな課題、クリアポイントをつくる
・子どもが集中できる時間を合わせる
・物事の因果関係を理解するために絵本の読み聞かせをする
注意や指示をするときのポイントは?
ADHDの特性を理解することが大切ですが、保育園や幼稚園で集団生活をしている以上、注意や指示をしなければならないこともあるでしょう。 そのような場合は、下記をポイントにしてみてください。
・短く具体的な言葉で話す
・「○○レンジャーが戦いの場面で歩き出したら、どうなる?」など興味があることに関連づける
・小さいことでもできたときは大げさにほめ、達成感を味わえる工夫をする
・近い距離で、静かに、おだやかに話す
トラブルが起きたときの対処法
ADHDの子どもに精一杯対応していても、どうしてもほかの子どもとトラブルになってしまうことがあります。どのような場合でも、まずはケガなどに注意を払いつつ、子どもの気持ちを受け止めてあげましょう。対処の基本は「近づいて」「落ち着いて静かに」話すこと。子どもが興奮していたら無理に諭さず、興奮が冷めるまで待つことも大切です。
そのほか指示や注意のポイントでも説明したように「視覚的」「具体的に」「短い言葉で」伝えるほか、どのような場合でも「ダメ」「いけない」などの否定的な言葉を避けるよう心がけてください。
ADHDの子どもたちにもさまざまな可能性があります。その可能性を広げられるかどうかは、その子どもにかかわる大人たちの対処によるところが大きいのです。
ADHDを理解して自信を持って子どもと向き合おう
今や10人に一人が何らかの発達障がいを発症しているといわれ、担当している保育園や幼稚園などでも、クラスに一人や二人は気になる子どもがいるでしょう。大切なことは気になる子どもの症状をきちんと理解し、発達に合った対応をしていくこと。そのためには自分自身の対応だけでなく、保護者やほかの先生との連携も重要です。
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都内の認可保育園にて園長経験7年、保育経験のべ30年以上のベテラン保育士。現在は研修など人材育成に注力。